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九月の声を聞いた途端というノリで
そりゃあ涼しくなったのみならず、
台風でもないのに突然の豪雨が襲い来た関東地方だったが、
そこまでの大荒れ、一昼夜で何とか収まったようであり。
『でも、一気に涼しさも増したような。』
『そうだねぇ。』
昨年に負けないほど暑い夏だったのにね、と。
掛け布団として重宝していたタオルケットを洗濯し、
薄い綿入りの夏掛けと交換することとしたものの、
これでも朝なぞは寒くないかなと案じるブッダだったのへ、
『大丈夫vv』
はいこれと手渡された長袖のTシャツ、
一瞬だって見もせずという素直さでそのまま頭からかぶりつつ、
イエスが、そんな風にあっさりと応じて、
『私は風邪なんて引かないし、キミには私がついてるんだしvv』
『う…、/////////』
寒いなと感じたイエスが 自然なこととして供寝する伴侶様を掻い込むから、
それでブッダへの防寒対策も万全となるでしょ?と言いたいらしく。
そんな屈託のない無邪気な理屈へのみならず、
『〜〜〜。///////』
そういう思惑だというの、
こんな短い言いようから瞬時に判った自分の察しのよさにこそ、
素早く照れてしまった釈迦牟尼様だったのが、
彼らの間の機微を示しているようで、
微妙に奥が深かったりもしたのだけれど。(笑)
まま 今はそれもともかくとして。
「枝豆、美味しいねぇ。」
昨日昨夜はお天気がどう急変するか判らないからということで、
早めに銭湯へ行き、そのまま夕ごはんも早めに取った。
そのせいでか、さほど夜更けにならぬうちから
“小腹が減ったなぁ”と そわそわし始めたイエスだったのへ。
それもまた見越していたものか、
手際よく茹でた枝豆を“どうぞ”と差し出した、
相変わらずに周到な奥様、もとえ主夫であられるブッダ様で。
甘みが深くて美味しい美味しいと、
にこにこ食べるイエスなのへ、
こちらからも“ふふーvv”と朗らかな笑顔を見せつつ、
「八百政さんにね、
枝豆の旬は実は今時分なんですよって言われたんだ。」
「えー? 夏の定番って感じなのに?」
産毛もしっとり瑞々しい、若草色の莢を手に、
イエスがびっくりして聞き返すのへ、
「ビールのお供にって引き合いが多いんで、
ソラマメ同様、そういう印象が強いけれど。
路地ものは今時分が一番美味しいんだよって言ってらした。」
実は私も驚いちゃったのと、そこは包み隠さず付け足してから、
「此処で問題です。」
「???」
人差し指を立て、
いきなり学校の先生みたいな口調になったブッダであり、
「この枝豆、今時分に収穫しないでおくとどうなるでしょう。」
「え? 枯れちゃう、とか?」
それとも次の年の種イモみたいに、植えたままにしとくのかなと、
小首を傾げて手元の枝豆をまじまじと見やるイエスの素直さに微笑んでから、
さほど焦らしもしないで答えを示す。
「実は、大豆になっちゃうんだって。」
「えーーー。」
豆腐やお味噌や油揚げになる大豆?
そうだよ、豆乳や大豆ミートの元になる大豆だよ、と
それもまた八百屋さんに聞いたらしいブッダ、
にこにこと知識のおすそ分けをするのもいつものことであり。
凄い凄いと、枝豆をあらためてまじまじと見やるイエスをこそ、
微笑ましいなぁと見やっておれば、
「ブッダって凄いなぁ。何でも知ってるんだもの。」
枝豆も凄いけどと、
初々しい興奮に瞬く双眸をこちらへも向けられて。
思わぬ不意打ちに
ありゃりゃと面映ゆそうにたじろいでしまう。
「いや、でも。これは、私も人から訊いたばかりの話なんだし」
「それでも。
一度聞いて覚えたことは、ちゃんと素早く取り出せるじゃない。」
記憶というのは
見聞きして知ったことを再び思い出せなきゃ得たとは言えず、
そして、それを誰かへ説明出来なきゃ“知識”とは言えぬそうで。
さすがにそういう道理は知っておいでだったイエス様、
凄いよねぇと やっぱり純真に褒めちぎるのへ。
圧倒されつつ、でもでもと、
そのままは受け取れないのは何故かと言えば、
「でもネ。わたし、判んないことの方がいっぱいだったよ?」
そんな言いようを返しつつ、ブッダもまた緑の莢を指先に摘まむ。
ちょんと莢を押して豆がお顔を出したところを、
口許へ寄せて白い歯でちょいと引き出して…という、
特に珍しくもない食しようだというのに、
“…なんでかなぁ。////////”
品があって、それであのあの、
ぽっちゃりとふくよかな緋色の口許が何とも言えず色香があって。
そこへと吸い込まれたお豆だった一部始終から
そわそわしつつ ついつい目が離せなかったイエスなのへは
ちいとも気づかなかったものか。
何でも知ってるなんて滸がましいと、
鼻白んで見せた態度のまんまのブッダ様はといや、
「色んなことをどれほど知ってたって、それはそれ。
それが判らなきゃ何にもならない、
他でもないわたしが落ち着けないってことが、
そりゃあ いっぱいあったもの。」
「あ…。/////////」
照れと含羞みを綯い混ぜにした、
ふにゃんと柔らかな、
それでいて やや力ない微笑い方をする如来様が。
こちらからも愛しいと同時、何を言いたいかもすぐに判ったイエス様。
“それって…。”
博識で知的な彼ではあるが、
判らないという壁を前に戸惑っていた事態も確かにあって。
しかもしかも、
そんな風に落ち着きをなくしては困惑していたブッダだったのは、
どれもこれもイエスへの想いに動揺したがゆえのものばかり。
唯一の人という愛しさを自覚することの大変さに、
慣れがなかったせいもあろうが、彼ほどの人格者が振り回されていたのは、
聞き手だったイエスにもまた鮮烈な事態であって。
そうと思い当たってのこと、
イエスの表情が不意を突かれたそれへと変わったのへ、
「ほら。
こんな風に、一言でピンと来ちゃうんだもの。
キミの方がよほどに凄いんだよ?」
微妙が過ぎてのこと、言い表すことも容易ではないような、
そんな機微というものを繊細絶妙に掬い上げられることのほうが、
博識であることより大切、と。
「私なんて頭でっかちなだけだもの。」
他でもない慈愛の如来様から
そうと静かにさらり言い切られては、
「いやあの・それは…。//////」
自分なんて大雑把なだけなのにと、
こちらはこちらで狼狽するばかりなイエスだったが、
「うろたえたのでさえ、
私を想ってくれてのことばかりだったしね。」
その方が凄いよ、うんうんと
深々と頷くブッダなのへは、さすがに異義ありと思うのか、
「…そこは一緒でしょ。」
ちょっぴり塩辛くなった指先なのか、
人差し指と親指の腹を口許へと当てて拭いつつ、
謙虚も過ぎれば何とやらだぞと、ムッとしたよな顔をして見せれば。
“あ、そういう仕草は無しだってば。////////”
男臭い口ひげの下だというに、愛嬌たっぷりで表情豊かな口許が、
だのに雄々しい指先が近づくと、不思議と不意に色香を増すから罪深い。
そういう所作に視線を奪われつつ、
でもでも イエスが持ち出した話も、
何のことかはすぐさま脳裏で引き当てていて。
“うっとぉ。///////”
唐突に様子がおかしくなって、
自分なんかが傍に居ちゃあいけないからと、
いきなり別離を持ち出したイエスだったのへ。
理由をちゃんと話してくれなきゃ、
“じゃあ さよならだね”だなんて聞き分けの良い態度なぞ到底取れぬと、
それはそれは強硬に食い下がり。
結果、見事に言い諭してしまわれた、
すこぶるつきに冷静かつ果断だったお人はどこへやら。
『蒸し返すようだけど、あのね、
あの……………本当に私でいいの?』
そんなことを今更言い出した可愛い人。
「揺るがず混乱もせず、
しっかり言い諭してくれたほど落ち着いてたくせに。
直後のすぐにも不安がってた“繊細さん”は誰だったの?」
イエス本人を相手にしてさえ、
そうまでしっかりして来てもなお、
日毎新しく芽生える様々な想いというのを抱え、
いちいち振り回されてもいたワケで。
「だって、あのその。///////」
あれはあのあの、何て言うのか。
触れ合うときに感じるものへの、
質というか深みというかが
すっかり変わってしまった身となったからには。
考えようも感じ方も
これまでとは全く違ってくるかも知れないなぁとか、
いっそのこと女性へ転変してならどうだろう、
いやいや それもまた話は違うよねとか、
「そこはやっぱり考えるじゃないかぁ。//////」
結果として“考えすぎだよ、キミこそが好きなんだから”と、
イエス本人から丁寧に諭されて、何とかコトなきを得たものの。
それをこんな格好で持ち出された挙句、
「ブッダって頭でっかちっていうよりも、
基本 ヲトメなんだよねぇ。」
「〜〜〜。///////」
イエスとしては褒めたつもりの“か〜わいいvv”というお言いよう、
とはいえ、睦言という響きがたっぷりで。
やんわり細められた目許や甘く微笑う口許もあいまって、
ブッダの胸底を撫で撫でとくすぐったものの、
“乙女って、乙女って…。////////”
ヲトメ イコール“可憐な少女”とでも解釈したものか、
だとすれば、そういう言われようは
褒められていつつも“幼い”と言われたようでもあって。
それこそ、微妙なさじ加減、今の彼にはちょっぴり癪でもあったのか。
うううと言葉に詰まってから、
「……………………ばか」
小さな小さなお声での反駁を洩らしたところ、
「う…。/////////」
上目遣いと か細いお声、
透けるような頬を朱に染めつつの抗議のお声へ、
ここではヨシュア様の側が、
速攻で胸にきゅんと来たようで、
それは他愛なくも、総身を固まらせてしまったのでありました。
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*あああ、まだなんか取っ掛かりです、すいません。
まま、秋の夜長とも言いますし、
長くなってもしょうがないということで。(こらこら)
めーるふぉーむvv


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